午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

8月も気がつけば終わりに近づいている。ここ最近は、女の子の車で海や山に行ったり、彼女の大学にある講堂へ忍び込み、傾いた夕日が差し込む中でピアノを弾いたりしていた。

 

日が暮れて暗くなっていく部屋のベッドの上で、女の子と無言で寝ていた。彼女は高校の制服を着ていた(昼間、「援助交際する女子高生とサラリーマン」という設定で、馬鹿げた戯れをしていた。ちなみに制服は3年前彼女が卒業した高校のものだった)。制服を着た彼女の身体に自分の身体を当てると、「音」が聴こえてくる。言葉では表現できない、彼女の世界の一部分であった。それは海に似ていた。彼女が愛読する『海獣の子供』という漫画の中で、言葉にできないクジラの「ソング」の話が出てくるが、私が彼女から聴き取っている「音」はまさにそうした種類のものであるように思えた。

 

女の子の世界はあまりにも広く、複雑で、そしてきらきらしている。それは太陽に照らされた海面のように、穏やかに光っている。ただ、それを別のものが覆っているため、視るには確かな決意が必要であった。そうした世界のイメージを媒介する「音」を、彼女の身体に全身を当てて聴くのである。

 

彼女の海を泳いでいるうちに、ひとつの叫びに突き当たった。初めて出会った日に私に話してくれた、自分自身に手をかけようとしたという出来事のイメージだった。それは、私には叫びに聴こえた。「虫だって動物だって、光るものは見つけてほしいから光るんでしょ」という『海獣の子供』のメタファーを借りれば、彼女は誰かに見つけてほしいから光っていた。私は暗くなった部屋で突然目を開けて、横たわる彼女に二度とそんなことはしないようにと小指で約束させた。ふたつの身体は、「指切りげんまん」した小指でつながっていた。それは、ふたつの世界にかかった橋だった。私は強い力を込めた。私は、彼女のことを底の底から愛していた。

 

海獣の子供(1) (IKKI COMIX)

海獣の子供(1) (IKKI COMIX)