午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

2017-01-01から1年間の記事一覧

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19歳でトロントへ短期の語学留学をした。 そのとき先生に将来の希望を聞かれ、「研究者になりたい」と言ったのをふと思い出した。 いつのまにか6年が経った。驚きである。 かなりの紆余曲折があった。 慣れ親しんだ東京の街を去り、北の果ての離島・礼文島で…

雪の夜

ひとりになった途端、夜の恐怖と底の深い寂しさに囚われる。 置き去りにされたような感覚、なぜ生きているのかという見たくもない問いかけ。 電話越しの女性は、かつて私が書いた小説を読み返したと話してくれた。それは、かつての私のすべてを封じ込めたも…

斜陽

ベッドに横たわりながら、かすかに傾いた夕日を感じる。 今この瞬間も、我々は死へと向かいつつある。どんなに楽しい瞬間にも、隣には死がひそんでいる。 頭の中には、遠い過去、遠い未来、あるいはあり得たかもしれない別の生活、別の人生に対する強い憧憬…

秋の終わり、あるいは島生活の終わりの始まり

雨予報に反して、晴れた秋の空だった。もうすぐ綺麗な夕日が見られるだろうが、私はあえて家に止まる選択をした。窓から傾いた陽がわずかに差し込んでくる。 島生活も、終わりが近づきつつある。私の頭の中に様々な情景が思い浮かぶ。それらは自分を交点とし…

人生の寄り道

礼文島から一日をかけて、名古屋に戻って来た。束の間の滞在だ。 本屋の中をぐるぐる周りながら、自分の考えの中に没入する。 消費社会の象徴を眺めながら、自分が相手にすべきものを思い出す。 自分にとって礼文島での2年間は、人生の寄り道であった。それ…

荒野のおおかみ

雨が降る中、家の中でヘルマンヘッセ『荒野のおおかみ』を読了した。 今の自分にとって、質の良い文学や芸術は、日常生活から束の間の自由を錯覚させる麻薬のようなものだった。 この2年ほど、日常生活、事務室の規則的なチャイムの音に魂を売り渡すことで今…

生活と人生、あるいはボケとツッコミ

日曜日の昼下がりに、いつもより丁寧にコーヒーを淹れる。開封したばかりの新鮮な豆をミルで挽くと、匂いが広がる。 島の食材を食べ、登山をして、夜にヘルマンヘッセの「荒野のおおかみ」を読む。私の生活は満ち足りたものであるように思えた。 お笑いには…

「桃岩荘」に泊まって感じたこと

礼文島には、「桃岩荘」というユースホステルがある。「日本3大バカユース」と言われており、その歴史は古く、全国的な知名度は高い。 「桃岩荘」は礼文島に住んでいても近寄りがたい存在だ。桃岩荘はただのユースホステルではなく、独特の文化を持っている…

「疎外」

見たくないものを見てしまう。 目をそらしていたものに反逆される。 抑圧していた心の声。 自由に動き回る精神。 欲求が、真理を求めて飛び跳ねる。 本当のこと。嘘を溶かした、むき出しの実存。 丸い真実に、四角い蓋をされた社会。 自分からどんどん離れて…

黒い海

月が綺麗な夜に、黒い海に溺れそうになる。 方向感覚など、とうの昔に失っている。 もがけばもがくほど、泡が出るばかりである。 暗闇に沈む。 しかし、一筋の光が見える。 自らの確信。根拠のない、強烈な光。 そう、心の声を聞くのだ。

稚内

稚内に着いた。日本最北端であるこの街につくと、もの哀しい気分になる。人口3万人の港街で、果てしない孤独を感じる。 今、古びたホテルの一室で、ジャズを聴きながらこの文章を書いている。眠気をこらえながら、何を書きたかったのかと記憶を巡らす。 気分…

東京

「自分は何者なのか?」 馬鹿げた問いの立て方だと思う。しかし、問いかけが頭から離れない。 自分は島で生活に埋没していた。それは退屈でも、都会に帰ってから思い出せばとてもキラキラと輝いていた。島で炭に火をつけていたことなど嘘のように、すました…

土曜の昼下がり

華金を終えて、土曜日の正午近くに目がさめる。 窓を開けて、空が青いことを確認する。 電気もつけないまま、ソファに座り、IPAの瓶を開ける。ビールの味が、舌を通して心地良い憂鬱感と溶け合う。 ベッドの上に再び寝転ぶ。平日の倦怠感を未だに引きずって…

午後の雨

雨が降ってきた。私はジャズを聴きながら、紅茶を手元に置いてゆっくりと本のページを繰っていた。曲の合間にかすかに屋根に当たる雨の音が聞こえてくる。 本を閉じると、目の前に現れたのは礼文島だった。もうすぐ5月。礼文島は観光シーズン本番へと突入し…

自分の中の神話

少し、自分の過去を振り返ってみようと思う。 自分は、記憶の中にひとつの神話を持っている。それは20歳のときの話だ。 大学3年の当時、軍靴ならぬ就活の足音が聞こえてきたころの話。 20歳になった私は、はじめて自分の死、自分の社会的役割、そして人生の…

「生きづらさ」の正体

生きづらい。ひとりの若者として、漠然とそんなことを感じていた。私だけではない。街を歩けば、テレビをつければ、SNSをのぞけば、そこには「生きづらさ」の言説が溢れている。しかし、それはなぜだろう?私は、ずっとその正体について漠然と考えて来た。 …

戦争について、最近思ったこと

朝鮮半島関連の最近のニュースを見て、なんとなく思ったことを書き留める。 今、ニュースなどで、「北朝鮮に向かってアメリカが先制攻撃する」「朝鮮半島で戦争が起きる」などと煽られている。ネットニュースにつけられたコメント欄にも、戦争への願望で溢れ…

礼文島

礼文島暮らしも今日で一年が経過した。 今日一日は、東京から遊びに来た大学の同級生をフェリーターミナルへ送り届けるところからはじまった。そして仕事を終えた今、特に予定のない私は、Roy Hargroveのstrasbourg st. denisを聴きながら家でひとりビールの…

雪山を歩くと...

先週、雪山を登っていたときのことだ。私は前を歩いていたアメリカ人の後ろについていた。もともとはそんなに難しくないはずのコースだったのが、一昨年の大嵐の倒木のせいで、迂回せざるをえなかった。そして、彼は急な角度の崖のような場所を登り始めた。…

島にいた夢

2016年が終わった。私にとってはあっという間だった。 まるで、島にいたという長い夢を見ていたようだ。帰省した都会の空気は汚く、情報は多く、住み慣れたはずの街に強い違和感を抱いている。 島の生活、島の人々の価値観に同化したわけでも、賛同したわけ…