午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

呪いを解く

最近、NHKのプロフェッショナルでエヴァンゲリオンの作者である庵野監督を見て、思った。「この人、呪われてるな」と。苦しみながら、追い詰められながら制作する彼の姿を見て、最初は制作に呪われているのかと思った。だが、そのあとよくよく考えてみると、この人は、呪いを解くために映画(エヴァ)を作っているのではないかと思うようになった。

 

呪い、というとき私の頭にあるのは、映画『もののけ姫』のアシタカだ。彼は、一族の長になることを期待されて普通の生活をしていたが、ある日突然タタリ神に呪われてしまう。そして彼は村を追放され、呪いを解くための旅に出る。旅の道中、彼はさまざまな人の欲望や対立に巻き込まれていくが、彼は腐ることなく、あくまで彼のまま、その渦中でも自分に降り掛かったさまざまなことを自分ごととして引き受け、できることを精一杯にやる。彼が望むのは、運命を「曇りなき眼で、見定める」ことである。最終的に、呪いは消え、かすかな痣だけが残り、彼はたたら場で生きていくことを希望する。

 

もしかしたらこのアシタカが受けた「呪い」、わたしたちのなかの一定数が、思い当たるところがあるのかもしれない。交通事故で娘を亡くしてその日から絶望に突き落とされたとか、震災にあって生活が変質してしまったとかで呪いを受けた人もいれば、生まれたときからなんらかの呪いにかかっていると主観的に思う人もいるだろう。呪い自体は、受けた本人とはほとんど関係ない。本人には、呪いを受けた責任はない。しかし、アシタカはそれを自分ごととして引き受けた。そしてそこからさまざまな人(それにはサンも含まれている)、と出会い、大きく成長していった。

 

自分自身、自分にかけられた呪いを癒やすために、「食えない」といわれる人文系大学院の博士課程で社会学を専攻して、日々研究しているのかな、とそんなことを考えた。