午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

「壁」の向こう側

修論その他の作業に追われている(といっても今週は疲れたので原稿を放置していた)。執筆の過程で、「壁」が見えてきた。今まで何度も同じ「壁」にぶち当たり、一度も乗り越えていないという自覚がある。

 

最初の「壁」は学部時代、小説家を志して文芸誌の編集部に通っていたときのことである。二度目は研究者を志し、学部卒にもかかわらずデータエンジニアのポストをすぐに得られたときのことだ。二度とも期待してたよりも遥かに早くチャンスがめぐってきたものの、ものにすることができなかった。

 

そして今回、一度は完全に諦めた研究者の修行コースになんのめぐり合わせか復帰して、再びチャンスがめぐってきた。すなわち、また「壁」の近くまで来ている。ただ、今回は今までとは違って、壁の向こう側がうっすらと見えている。ただ越えられてはいない。

 

「壁」の先の光景は、自分にとっては意外なものだった。「壁をぶち壊す」「壁を乗り越える」という表現のように、「壁」は破壊し、あるいは乗り越えてその先へ上昇するというイメージがあった。「壁」さえ乗り越えれば万事快調、トントン拍子で進んでいくと思っていた。しかし、それはどうやら違うようだ。

 

自分の前に初めて姿かたちをあらわした「壁」は、非常に重厚な作りで、こちら側の世界と外界を隔てている水平的なものであった。例えるなら、漫画『進撃の巨人』に出てくる城壁のようなものだろうか。そして、「壁」の向こう側は、想像していたようなバラ色のものではなく、むしろ壁のこちら側のほうが百倍マシだと思えるような、魑魅魍魎がうろうろする地獄絵図であった。それを初めて覗き込んでしまい、戦慄した。「壁」の向こう側に身を投じる覚悟はあるのか。そう問われている気がした。

 

「壁」のこちら側は、予測可能な世界、自分自身がコントロール可能な安心安全の世界である。そこはとても居心地がよい。対して「壁」の向こう側は、そうではない。今まではおそらく、その状況を受け入れる準備ができていなかったのだろう。そして今、馴染みのある安定した世界に留まるのか、自分自身を死滅させた先に広がる光に突き進むのか、その二択を迫られている。

 

どんなことがあっても、流れに身を投じる。そして、サーファーのように人生の荒波を乗りこなし、楽しむ。少しずつ、自分はそういう方向に向かっているように思う。