午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

コーヒー豆

大学院の友人との待ち合わせを待つ間、ちょうどなくなっていたコーヒー豆を買うために大学近くのBlackbird Coffeeというコーヒー豆屋さんに行った。その店はイートインはほとんどなく、豆を売っている店だ。私が好きな深煎りが中心で、マスターは私が行くと毎回自分が焙煎したコーヒー豆や今年の農園・製造所の出来について早口で熱弁をふるってくれる。

 

店を出て、雨の中キャンパスに戻る途中、自分の修士時代の2年間(まだ終わったかは定かではないが)、辛い生活を救ってくれたのはコーヒー豆であることに気がついた。常にお金の心配をしており、いろいろなことを削っていたが、コーヒー豆への出費だけは削らなかった。しかしあまりに当たり前のことだったので見過ごしていた。

 

自分にとってコーヒー豆は、それこそ空気のような当たり前の、なくてはならない存在だったのだ。そういえば大学院に入ってから一度スペシャルティコーヒーの豆を買うのをやめて安いものにしてみたことがあったが、すぐに耐えきれなくなった。私にとってスペシャルティコーヒーは、ただのコーヒーではなく、日々に彩りを与えてくれる芸術作品に限りなく近いものだからだ。

 

私が知る自家焙煎のマスターたちはみな個性が強く自信満々であるが、それだけ豆に魂がこもっている。そんな彼らのクラフツマンシップは、冗談抜きで本当に私という人間を救ってくれているのだ、と店を出てから気がついて、感謝の念がこみ上げてきた。私にとって彼らの仕事は、本当になくてはならないものである。

 

そんなことを考えながら、私はコーヒー豆を挽くのだった。