前略
お元気ですか?こちらは元気です。
もっとも、「元気」がどのような状態を表すのか未だにわからないけれど。だけど、本当に元気がないときは素直に「元気じゃない」とか言うから、そういう意味では今はいわゆる「元気」の範疇に当てはまるのかも知れない。
今は昼下がり、先程プールでいつものように泳いできた。空はとても晴れていて、日差しが心地よい。窓から陽が差し込んだ部屋で、いい感じの音楽をひとり聴いてる。朝、コーヒー豆を挽いて、ゆっくりと飲んだこともいつもと同じ。
今日は生まれてから何日経つのだろう、って考えて計算したら、9949日だった。9949日も生きていたのか。よく今日まで生き延びたと思う。窓から今見えているのは青空だけれど、その9949日には大嵐の日もあれば、雷の日もあり、曇りの日も、霧の日もあった。窓が壊れるんじゃないかという台風の日もあった。そしてそれはこれからもあるだろう。
窓は閉めていることが多いけれど、たまに換気のために開けることもある。窓を開けて外を見ていると、紙飛行機の形に折られた手紙が部屋に入り込んでくることがたまにある。手紙ははるか遠いところから来て、今や目を逸したくなるくらいの気恥ずかしい過去の空気を纏って、ぼくに何かを求めてくる。あるいは逆に、ぼくの方から手紙の紙飛行機を外に飛ばしたくなることもある。けれど、不幸なことに、必ずしもこちらと向こうの宛先は一致しないんだ。
今までいろんなことがあった。君が想像できないこともたくさん。今、君に言いたいことがあるとすれば、なんだろう?世の中はうまくいかないんだとか、そんな月並みなアドバイスだろうか?あるいは、生きることは楽しいとかいう気休めか、逆に社会は厳しいんだとかしたり顔で言うのだろうか?ぼくが君に望むことはなんだろうか?
信じろ。そう言いたい。頭を使うことも大事だし、決断することも大事だ。しかし極論、そんなこと別にできなくたっていい。ただ、信じてほしい。君が今、ここにいるということ、呼吸をしているということ。存在していること。生まれてきてからそのうち10,000日を超える。すぐにもっと日数は増えるだろう。しかしいつの日か、その日数が増えなくなる日が来る。その日までの日数はわからないけど、1日1日減っていくことだけは確実だ。
ぼくは、君が理解されないことをよく知っている。君がふつうの人間ではないことも。君のことを理解できない人間をたくさん知っている。だけど、諦めないでほしい。ぼくはいつも、君のことを見ているから。そして、月並みな言葉であれだけど、信じているから。
草々