午後の雨 / Rain in the Afternoon

らくがき未満 / less than sketches

それだけのはなし

最近は、朝起きてプールで泳ぎ、午後からはブックカフェで論文を書き、夜は本を読むという生活をしている。といえば随分と余裕のある暮らしをしているのかと思うだろうが、内実心のうちに焦るものがあり、実質会社のオフィスで忙しく仕事をしているのと心持ちは変わらなかった。

 

今日もいつものように泳いで、家の近くの駅付近にあるカフェで昼食をとる。ふと、天気もよいので散歩でもしようかと思い立った。

近くには、十年以上前に通っていた小学校がある。通りを歩いていると、和菓子屋があった。創業明治11年と書いてある。私はこの店の存在を全く知らなかった。

 

看板には、草餅が今日は150円と書いてある。中を覗くと、和装をしたお客さんがひとりで和菓子とお茶を飲んでいる。迷った挙句、中に入ってみた。

 

店内で草餅を頼んで、お茶を淹れてもらい、ゆっくりと食べる。まるで、夏目漱石の小説の中のような、良い意味で昔のままで時間が止まったような雰囲気だった。ただ、何も考えずゆっくりと口を動かして、餡の味を楽しむ。和装の女性は店を出た。食べ終わったころ、店員の女性が「お口にあいましたか?」と尋ねる。私は「ええ、とても」と答えた。それから世間話になり、実は自分はこの近くの小学校に昔通っていた、このあたりの通りを音楽パレードで歩いた記憶がある、という話をした。今でもそのパレードは続いているらしい。そして私は店を出た。

 

この話に、役に立つような含意は何もない。ただ、言えるとしたら、一瞬の間、ほんの少しの風流と余裕を感じた。それだけのはなしだ。