逃避行
長崎へ来て数日が経った。私は今、港の近くにあるカフェのテラスでのんびりと景色を見ている。長崎港に停泊する漁船が風に吹かれて揺れている。今日もよく晴れている。
相変わらず、無気力にとらわれている。毎日が淡々と過ぎてゆく。私が見る限りでは、この街はとても静かだ。ここまで離れて、改めて東京にいた自分の姿をある程度「客観的に」眺めることができる。しかしそれは、少なくとも短期的には1円の収入にも結びつかない。この事実は私をさらに苛立たせる。
長崎市には立派な市立図書館が存在する。私はエドワード・サイードの『知識人とは何か』を借りて読了した。以前から気になっていた一冊だった。最初、私は強く共感し、途中、冷静になり、最後の方には理由の分からない嫌悪感に襲われた。もしかしたらそれは、自分自身に対する感情なのかもしれない。
- 作者: エドワード・W.サイード,Edward W. Said,大橋洋一
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1998/03
- メディア: 単行本
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時たま言いようのない孤独を感じる。何に対する孤独なのかはわからない。それは、強い光源に向かおうとする際にくっきりと現れる影のようなものなのかもしれない。社会システムからの分離による葛藤、自分が何者かになるための葛藤、1円にもならない葛藤。私は、いつまでカフェで本を読むだけの生活を続けるつもりなのか。私は何もしていない。作品を創る気にもなれない。ただ、毎日、食べる喜びを強く感じているだけの日々である。
ただ、今の自分が唯一持っているものがあるとすれば、それは何かからの逃亡への欲求である。